完全無農薬のお茶!?
室町時代から受け継がれた土地で、現在は農薬を一切使わずにつくられているお茶があると聞き、驚いた。なぜなら、通常お茶は農薬を多用しながら栽培され、特に玉露など高級なお茶ほど農薬を多く使用していると聞いていたから。
ちなみに、有機で栽培されるお茶の比率はたったの2.5%。現在の日本茶の99.7%は品種改良された苗木で、品種改良されたお茶の樹は虫が付いたり病気に罹りやすく、農薬の使用が必要なのだ。さらに、玉露などの高級茶は、より旨味のある仕上がりにするために肥料を多く施す。畑に窒素が豊富になると虫や病気が多くなるので、さらに農薬を多く散布する必要があるのだそう。
では、なぜ無農薬のお茶づくりが可能なのか?
政所茶とは
政所茶の生産地は、滋賀県。日本最大の湖である琵琶湖に注ぐ愛知川の源流域で、鈴鹿山脈の深い山奥に政所町を含む7集落が点在する、奥永源寺と呼ばれる地域。
その起源は室町時代に遡り、「宇治は茶所、茶は政所」と茶摘み歌に歌われるほど、一時は隆盛を極めた。しかし、人里離れた山深い場所にあるために機械化がまったく進まず、いっときは年間30トン生産されていた政所茶の現在の栽培面積は、現在はわずか2.5ha、栽培農家も60軒ほどにまで減少した。
ほとんどの茶産地は効率化を進め、挿木栽培による品種化と機械化で生産量の増大に邁進してきた。政所では、近代化は一切進まなかったが、それが逆に大きな魅力になろうとは、何とも面白い。
昔と一切変わらないお茶づくりを
政所では、近代化が一切進まなかったお陰で、室町時代から綿々と受け継がれてきた栽培法が今も変わることなく受け継がれている。
まず、その風景に驚かされる。一般的な茶畑は、長い畝が何本も並んでいるが、政所では険しい斜面の合い間にお茶の樹がポコポコと点在している。政所のお茶の樹は、ほとんどが在来種で、樹に実った実が自然に地面に落ち、やがて芽吹く。
それが、何世代にも渡って政所の気候風土にあった進化を遂げ、この状態に至っているとのこと。霜害が多く、雑穀しか育たなかった土地にもかかわらず、見事に進化し、現在まで受け注がれてきた。
また、交配品種と違い、1本1本の樹が種から生まれているため、各々が個性豊かなこともとても興味深い。ある樹が病気に罹ったとしても隣の樹は元気であったりと、畑全体に大きな被害が広がる心配もない。このような奇跡的な自然要因が重なり、この地域で、農薬を一切使用しない栽培が600年にも渡って受け継がれている。
栽培家はドクター?!
今回ご紹介する政所茶の生産者は、滋賀県出身の佐藤滋高さん。実は、佐藤さんの本業は医師。
あるとき、歴史ある政所茶に興味を持ち調べると、政所の生産者の多くは高齢者で、政所茶が今や絶滅の危機に瀕していることを知った。「何とかこの政所茶を再興できないか」と考えていたところ、後継者が不在となった茶園を引き継がないかという話が舞い込み、自らが生産者となり、政所茶の将来を引き繋ぐ決意をしたそう。
休日には、政所茶に興味を持つサポーターらを引き連れて農作業に勤しみ、また琵琶湖を中心に発展した独自の食文化にも造詣が深く、滋賀の食の魅力を伝えるアンバサダーとしても活躍している。
味わいの特徴
ドクター佐藤のつくる政所茶、特に平番茶は、淹れ方や味わいが通常のお茶とは大きく異なる。
3、4分じっくり時間をかけて淹れ、急須は横に広いものがお勧め。はじめは薄いように感じられるお茶が、時間をかけることで実に味わい深くなる。もう一つの特徴は、何煎も入れられること。普通のお茶は2煎目になるとだいぶ味が落ちてしまうが、この政所茶は3煎目でも味わいが変わることなく楽しめる。
おすすめの飲み方は、1煎目は60度位のぬるめで淹れ、2煎3煎と淹れるに従い徐々に温度を上げていくこと。
自然栽培のためか、初めに感じられる香りは強くないが、飲むごとに芯のある深い味わいが感じられる。少し手間をかけると大きく味わいが変わるので、気長にお楽しみを。
ドクター佐藤が栽培する政所茶を、ぜひ一度お試しください!
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